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2007年5月19日 (土)

浅草で流しやってたおっちゃん

職場のある国立の街、今朝は少々強めの雨が降った。傘を持ってなかった僕。雨宿りに入ったところで、週末に干し柿の露店をだしてるおっちゃんが、商売仲間と携帯でしゃべっていた。

「おおぃ、まいったよ。こっちゃすげぇ降りだぜ。お前今どこよ? あ? 何? え、春日通りぃ? え、降ってねぇの、そっちゃ? もうこっちは困っちゃったよぉ」そして商売仲間とのおしゃべりの興奮がさめやらぬまま、僕に話しかけてきた。「まいっちゃうよなぁ、おい。こんな雨よぉ」。すごく気さくだったし、こういう下町気質なおしゃべり、僕は大好きなので、つい僕も話に乗ってしまった。こっからは、宮本常一「土佐源氏」(『忘れられた日本人』岩波文庫所収)を気取って、おっちゃんの口調中心で書いてみよう(^^)

「春日通りはまだ降ってねぇんだってさぁ。でもよぉ、こっちが降ってるからじきに降るな。え、何、あんた春日通り知ってんの? 木場に住んでた? そうかい(^^)。さっき電話してたヤツよぉ、東陽町(木場の隣)に住んでる奴なんだよ。こういう商売、雨降ると大変だよぉ。あまり長くないんだわぁ、この商売。昔は歌で食ってたんだけどねぇ。ギター弾いてさ。」

ちょっとここで僕もムムッと思ってしまった。
「趣味だけどギター弾くんです」って言っちゃった。

「ほぉ、そうかい。まぁ、俺は演歌なんだけどね。売れねぇよな。」

僕は演歌歌手はすごいと思っている。かわいいだけのアイドルタレントとは違う。詞を吟味し、その上でどう歌いまわすかをしっかり考え、歌っている。もっと歌にウルさいカミさんの弁では、北島三郎さんなんか、聞いていると詞の情景によってきっちり抑揚を変え、ヴィブラートまで使い分けてるという。そんなこと僕が言ったら。

「サブちゃん? あんなのより、もっと上手いのが、昔の浅草にはごろごろいたよ。浅草で流してたんだ、俺。何ぃ、『浅草なら吉原も近いし、幇間(たいこもち)もいたでしょ?』って? そうよ、だから昔の浅草は、すごい賑わったんだ。あんた悠玄亭玉介さん知ってるかい? え、知ってる? 本を読んだ? そうよ、昔の雰囲気を残した最後の幇間よ。あの方のお座敷は絵になったねぇ「玉ちゃん呼べぇ」って俺が言うと、すぐきてくださる方だった。あの方が入ってくるだけでお座敷が華やぐんだよ。あんな芸人さんいねぇよな。ん?『おじさんも歌の芸人さんだったんでしょ?』って。とんでもねぇ、芸人っていうのはこんな玉介さんみたいな人を言うんだ。玉介さんはねぇ、座敷で歌ったりなんぞしない人だったけど、俺のギターでだけは歌ってくれたんだ。お客様をとても大切にする方だった。やっぱお客様あっての芸人だよな」

「最近は人間と人間の関係が、うすくなっちまっていけねぇな。白黒ハッキリ付けるのも必要だけど、もっとなぁ。俺、流していた頃、警視庁のお役人さんの座敷にも随分あがったよ。賭けて麻雀やったこともある(ヲイヲイ)。いまだったらすぐわーっと問題になってまずかったよな。でも俺らは人間関係を壊すようなやりかたしなかったから、大丈夫だった。俺が流しで食えなくなりかけた頃、座敷に呼んでもらって。娘二人いたからとっても助かったんだ。粋な金の使い方、知ってた人だったね」

なんか、仕事に来たのに、思いがけず東京の花街の「粋」の香りを、朝っぱらから嗅がせてもらった。こういう話聞くのは大好きだ。芸人のあり方みたいなものも考えさせてもらえた、とてもいい朝になった。

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コメント

なんか、なぎら健壱さんの書いた小説「歌い屋たち」という小説を思い出しました。
なかなか面白い本です。
そのうち気が向いたら、読んでみてください。

こういう日記を書くTonさんなら、一気に読めるかも。

投稿: 時代屋だんぞう | 2007年5月19日 (土) 14時31分

レス遅れてすみません。

>歌い屋たち

相模原市立図書館で蔵書検索かけてみました。
入ってます! 必ず読みます。
ご紹介ありがとうございます。

それにしても、街中にいる普通の人々って、
縁あって話してみるとそれぞれのドラマを
それぞれの人が皆抱えてるもんですね。

駅の雑踏なんかドラマだらけです。

だいいち男と女の出会いがあって、することしなけりゃ、
人混みの中にいる人みんな生まれない。
ほんとみんなドラマっすね。

投稿: さかた | 2007年5月21日 (月) 08時32分

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